推薦図書

■書名 『クリエイティブ資本論 新たな経済階級の台頭』
■著者名 リチャード・フロリダ著・井口典夫訳
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 2008年(原著は2002年出版)
■推薦者氏名 原 真志
■書評
 2001年に冬のニューヨークで行われたアメリカ地理学会で私が初めて研究発表したとき、気鋭の経済地理学者リチャード・フロリダ氏の研究発表を聞いて驚いた。「われわれが行ってきたデータ分析の結果、元気な地域に共通する変数をいくつか見出しました。経済が成長し、イノベーションが活発な地域と相関関係が高い変数として、外国人の割合などとともに注目すべきもの、それはゲイやレズビアンの割合です。」
 ゲイやレズビアンが直接イノベーションを起こしているというのではない。イノベーションを起こす人、外国人、ゲイやレズビアンをひきつける地域には共通性があるという話だった。こうした独創的なフロリダの研究は、一般向けの本も刊行されベストセラーとなり、様々な分野に影響を与えた。それがこの訳書の原著である。ゲイの分析と議論は、技術(Technology)、才能(Talent)、異端に対する寛容性(Tolerance)という経済成長の三つのTに関する章に収められている。長い間翻訳がなかったので私の授業「産業クラスター論」のある回では初年度からずっとフロリダの英語論文を教材として用いてきて、学生から、「とても興味をもっているのですが日本語で読めるものはないのですか」とよく質問を受けた。最近になってやっと翻訳が出て、気軽に読むことができるようになったという訳である。「企業を中心に分析され論じられてきた立地論にはミッシングリンクがある。クリエイティブで才能がある人はどんな地域に住もうとするのか、才能の立地論が必要なのである。」ニューヨークで聞いたフロリダのこの主張は非常に印象に残っている。
 日本に帰り、ゲイの分析のエピソードを含むフロリダの研究について、私がいろんなところで話しても最初は単なる余興としてしか聞いてもらえなかった。しかし今や、クリエイティビティは経済地理学、地域経済活性化、都市政策の議論におけるキーワードの一つになっている。さらにフロリダの研究は、そうした都市や地域の文脈だけでなく、企業経営の分野においても注目され、ハーバード・ビジネス・レビューで特集号が組まれるに至っている(日本版Diamondハーバード・ビジネス・レビュー2007年5月号クリエイティブ資本主義)。クリエイティビティに関する研究というとつかみどころのない漠然とした議論に終わるのではないかという印象を持つ方も多いかも知れないが、フロリダの研究の特徴はチャレンジングなテーマを扱い大胆な議論をしているようだが、分析アプローチは手堅いオーソドックスなもので、地域単位データとして出来る限りの定量化を試みて統計分析を重ねているところにある。独創的に見える議論もそうしたデータを根拠にしている。研究論文を読めば分かることだが、フロリダ氏はヒアリングなどの定性的手法と大量データを統計分析する定量的手法の両方をバランスよく行っているところも見過ごせない。政策実務家や企業経営者にも幅広い影響力を持つに到ったのは、そうしたスタイルに起因するのではないかと思われる。
 クリエイティブな人を引きつけることができる地域・都市が元気であり続けることができるというフロリダのメッセージをあなたはどう思うだろうか?日本では、どうなのだろう?最近はフロリダの原著が出てから翻訳書が出るのが早くなった。直近の著書『クリエイティブ都市論 創造性は居心地のよい場所を求める』(井口典夫訳、ダイヤモンド社、2009年)も合わせて読んでみるといいかも知れない。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『経営者の条件』
■著者名 P.F.ドラッカー
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 2006年11月
■推薦者氏名 畑中 和義
■書評
 ドラッカーは本書の中で、経営者のみならず組織で働くすべての人が成果を上げるために、如何に自らをマネジメントすべきかを示している。現在の社会においては、営利企業だけでなく非営利組織においても成果を上げなければ存在する意味がない。組織の成果を上げることによって初めて自己実現も可能となる。「経営者の条件」は、組織に働くすべての人に今直ちに実践すべきことを教えてくれる。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 競争の戦略
■著者名 M.E.ポーター著、土岐 坤・服部 照夫・中辻 万治訳
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 1982年
■推薦者氏名 板倉 宏昭
■書評
  ポーターは業界構造分析と経営戦略論を完成しました。 企業の収益性は、業界構造のあり方によって決まるというのが、本書の最大のポイントです。「収益性に影響を及ぼす5つの力」に沿って分析をしていくと、メディアに書かれている企業動向の真意やその行動の結果を知ることができます。 最も参照されている本と言えます。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『自然資本の経済』
■著者名 ポール・ホーケン,エイモリ・B・ロビンス,L・ハンター・ロビンス
■出版社 日本経済新聞社
■発行年月 2001年10月
■推薦者氏名 木全 晃
■書評
 本書は,今日の地球環境問題を解決するための重要なヒントをいくつも提供しています.その柱となるのが,“成長の限界”を突破する方法として示されている「ナチュラル・キャピタリズム」です.これは,①資源生産性を根本的に改善すること,②自然のメカニズムを模倣すること,③サービスを通じて価値を消費する経済に移行すること,④自然資本に再投資すること,といった4つの原則からなります.海外の先進的な事例も豊富に紹介されているので,環境と経済の両立を具体的に考えるうえで参考になるでしょう.
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『新版MBAマーケティング』
■著者名 グロービス・マネジメント・インスティテュート(編著)
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 2005年3月
■推薦者氏名 西山 良明
■書評
 1997年の第1刷以来、マーケティングを実践するという視点で構成された「MBAマーケティング」の最新版。大きくは基礎編、応用編で構成されており、基礎編ではマーケティングの全体概要およびポイントが分かりやすく解説されているため、初めてマーケティングに取組む読者にも理解しやすいと思います。また、応用編では、時代変化を適応した今日的なマーケティング戦略や事例が掲載されており、理論と実務の両面からマーケティング活動のあり方を理解することに役立つと考えます。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『ルーラル・マーケティング論(改訂版)』
■著者名 山本久義
■出版社 同文舘
■発行年月 2003年12月
■推薦者氏名 西山 良明
■書評
 本書のサブタイトルは「農山漁村型地域産業振興のためのマーケティング戦略」である。冒頭、日本の農山漁村型地域が直面している問題点と課題をとりあげながら、地域産業の振興のためのマーケティング戦略のあり方を論じています。次に農山漁村型地域産業の振興に関する政策や地域の取り組み事例を掲載し、最終章ではルーラル・マーケティングの体系についてわかりやすくまとめています。また、随所に基礎的なマーケティング理論が組み入れられているため、一般的なマーケティングの知識習得も図れると思います。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『実践!地域再生の経営戦略』
■著者名 日本政策投資銀行地域企画チーム
■出版社 きんざい
■発行年月 2004年12月
■推薦者氏名 佐野 修久
■書評
 地域を取り巻く環境が大きく変化する中、市民・NPO等を含む多様な主体が参画し、独自の地域資源を活用した地域プロジェクトが各地で実施されてきている。 本書では、こうしたプロジェクトの中から特徴ある62事例について丹念に紹介するとともに、これら地域プロジェクトを帰納的に分析することで、プロジェクトを成功に導く基本的な方向として「住民の参加促進」、「官民パートナーシップ形成」、「地域人材の確保・育成」、「地域資源の有効活用」、「外部人材・外部評価の活用」、「地域経営戦略の展開」という6つの視点を提示している。やや事例は古くなってきているが、今後の地域経営を考えるに当たり、多くの示唆を得ることができる。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 イノベーションのジレンマ
■著者名 クレイトン・クリステンセン(玉田俊平太監修)
■出版社 翔泳社
■発行年月 2001年6月19日
■推薦者氏名 柴田 友厚
■書評
  近年、実務家に最も大きな影響を与えたといわれている破壊的イノベーションの理論を説明している。
なぜ経営資源の豊富な優良大企業が、イノベーションに失敗する場合があるのか。その理由を、破壊的イノベーションや価値ネットワークといった概念によって解き明かしている。そのエッセンスを理解すれば、「市場の声を聞く」という耳あたりの良いキャッチフレーズの限界に気がつくはず。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『地域政策入門』
■著者名 藤井 正ほか編著
■出版社 ミネルヴァ書房
■発行年月 2008年10月
■推薦者氏名 田中 豊
■書評
  本書は、私の平成21年度の講義「地域公共政策」の参考書として紹介している本である。序章にある「現在われわれは、本当の意味で地域に立脚した地域政策時代の幕開けに立っている。」(下線は、当方にて)との認識と私も同じくするものであり、やや極端にいえば、これまでの中央集権型社会において地域にあったのは、おおむねは中央が定めたものの「着実な執行」であって、残念ながら「本格的な政策」ではなかったとさえいってもいいと考えるからである。そうした中で、本書は、上記の認識のもと、「地域」ということを強く念頭に置き、地方分権型社会形成に向けた取り組みをはじめ最近の地域を取り巻く枠組を踏まえつつ政策を論じることを試みており、私がよく使っている言葉でいえば、「いよいよ出番到来」の地域政策について、今後を考え、展望するための入門書として、推薦するものである。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『最後の授業 ぼくの命があるうちに』
■著者名 ランディ・パウシュ + ジェフリー・ザスロー
■出版社 ランダムハウス講談社
■発行年月 2008年6月
■推薦者氏名 八木  陽一郎
■書評
  推薦図書として学術書を挙げるべきかと迷ったが,そうではなくこの本「最後の授業」を推薦することにした.残念ながら本書の著者はもうすでにこの世にいない.著者は病を患い,自らの余命を医師によって宣告され,残された期間を出来るだけ悔いを残さないよう輝きを放ちながら生きた.MBAではほとんど教えられてこなかった事柄が本書には記されている.それは人生における喪失にいかに向き合うかということだ.我々の命には限りが有るという事実に基づけば,誰もが喪失体験を避けることが出来ない.何かを獲得することと同じ位,私たちは喪失することを学ぶ必要がある.著者は一流大学の教授として素晴らしい業績を残し,名声を獲得してきた人物であるが,彼は獲得だけではなく,喪失に対しても誠実に向き合い本書を遺した.喪失を前提とするとき,獲得に対する私たちの考え方にも変化が訪れるに違いない.
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』
■著者名 エリヤフ・ゴールドラット
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 2001年5月
■推薦者氏名 山田 伊知郎
■書評
  小説という形をとった工場経営の改善の図書です。著者のゴールドラットはもともと物理学者でしたが、経営に興味を持つようになり、独自の見方で既存の経営の考え方を批判的に考え、新しい手法を生み出しました。私たちはこの考え方を制約の理論(TOC: Theory of Constraints)と呼んでいます。本書は著者の考え方を現した最初の図書であり、続いて数冊の関連書を著しています。「ザ・ゴール2 思考プロセス」、「チェンジ・ザ・ルール」と書かれた順に読んでいくのが一般的でしょう。そこで終わりにせず、「ゴールドラット博士のコストに縛られるな! 利益を最大化するTOC意思決定プロセス」も特にお勧めします。TOCを別の角度から眺めることができ、理解を深めることができます。彼の考え方はマネジメント・アカウンティング、生産管理、問題解決手法などの分野に大きく貢献しています。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『インビジブルハート:恋におちた経済学者』
■著者名 ラッセル・ロバーツ
■出版社 日本評論社
■発行年月 2003年4月
■推薦者氏名 高塚 創
■書評
  経済学を学ぶことの一つの利点は,通常の思考では考え及びにくいところにも,思いをめぐらすべく考えるようになるという点にあるような気がします.例えば,地域活性化というのはGSMの共通したテーマだと思いますが,多くの人は,地域の衰退している部分を見て,何とかしなければと考えます.そして,例えばこれまでよりも多くの資源(人やお金)をその部門に注入しようと考えますが,そのような政策が「他の分野」に与える影響はあまり見ようとしません.また例えば,既に空気のような存在になっている社会のルール(法律)がある場合,「それがないときの世界」について積極的に考えようとしないようです.本書はとても楽しく気軽に読める小説であり,上記のような思考の扉を開けてくれる経済学の入門書です.もしこれを読んで経済学をもう少し深く学ぼうと思ったら,八田達夫『ミクロ経済学Ⅰ・Ⅱ』(東洋経済新報社)を読まれるといいと思います.経済学にどっぷりつかるのではなく,むしろそれを少し引いたところから考えたい人には,ジェイン・ジェイコブズ『市場の倫理 統治の倫理』(日本経済新聞社)をお薦めします.
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『非営利組織の経営』
■著者名 P.Fドラッカー
■出版社 ダイヤモンド社
■発行年月 2007年1月
■推薦者氏名 畑中 和義
■書評
  マネジメントは、営利を目的とする企業などだけのものではありません。病院、学校、大学、公共団体、NPOなどの非営利組織にとっても必要欠くべからずのものです。活性ある非営利組織をいかに作るか、非営利組織の使命は何か、非営利組織にとっての成果は何か、非営利組織の戦略は何か。非営利組織で働く人、目指す人必読の一冊です。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『地域経済学入門・新版』
■著者名 山田浩之・徳岡一幸編
■出版社 有斐閣
■発行年月 2007年12月
■推薦者氏名 亀山 嘉大
■書評
  本書は、担当講義「地域経済分析」の参考書の1つである。輸送費・通信費の低減は、国境の壁を低くし、空間単位として都市や地域の役割を大きくしている。本書の「はしがき」では、グローバリゼーションとローカリゼーションを統合・両立させる概念として、グローカリゼーション(glocalization)が紹介されている。そして、Think glocally, Act locally! の実践のためには、地域と世界を貫く論理である地域経済学を学ぶ必要があることが述べられている。本書は、地域経済学、都市経済学、経済地理学、さらには、関連領域の交通経済学や地方財政論の内容まで広範にカバーしている。これらの内容は、古典的ではあるが、押さえておく必要のある基礎的なトピックスであり、本書を通じて、都市や地域にある現実的な課題の見方を学習できる。今後の都市間競争の進展、あるいは、東アジアの経済統合を念頭に、国際的な視点で、自らが住んでいる都市や地域を見る眼を養っていく必要があり、そのための入門書の1つとして推薦したい。
『経営者の条件』P.F.ドラッカー
■書名 『戦略経営論』
■著者名 G. Saloner, A. Shepard, and J. Podolny(石倉洋子[訳])
■出版社 東洋経済新報社
■発行年月 2002年8月
■推薦者氏名 大北 健一
■書評
  本書はミクロ経済学(特に産業組織論)と組織論の研究成果を基礎に「戦略的経営」を 論じています.香川大学ビジネスクールで分析基礎科目群の「ゲーム理論」 や「経済分析」を履修される皆様方に熟読していただきたいテキストです. ゲーム理論やミクロ経済学の基本的な考え方を修得された後,本書を通じて市場・戦略・ 組織に関する洞察を深めるとともに,ご自身の経営課題の分析にも応用を試みてください.
推測統計のはなし
■書名 『推測統計のはなし』
■著者名 蓑谷千凰彦
■出版社 東京図書
■発行年月 1997年7月
■推薦者氏名 高塚 創
■書評
GSMの授業の中でも,(私が担当している)統計分析は難しい授業の一つとされています.理由はいくつかあると思いますが,本書のタイトルにもなっている「推測統計」の考え方の理解が一つの大きなポイントになっていると思います.平均や分散を計算する「記述統計」のあいだはいいのですが,それら統計量を確率変数とみなす「推測統計」の世界になじめないと,多くの標準的な統計分析が十分理解できずに終わってしまいます.しかし,多くの人がすぐになじめないのも当然で,両者の間には「コペルニクス的転換」があるからです.私も初めて推測統計の考え方を知ったとき,頭の中にぴかりと電球がともる思いでした.不幸なのは,多くの統計学の本が,このコペルニクス的転換を実にあっさり扱っている(ように見える)ことです.本書は必ずしも初学者のための入門書というわけではありませんが,このコペルニクス的転換を,生みの親である学者たちのエピソードも交えつつ,しっかりと書いてくれています.第1章「記述統計学から推測統計学へ」と第2章「"スチューデント"のt分布の発見」を斜め読みするだけでも,十分価値があると思います.
経営の未来
■書名 『経営の未来』
■著者名 ゲイリー ハメル
■出版社 日本経済新聞出版社
■発行年月 2008年2月
■推薦者氏名 高木 知巳 
■書評
2007年夏のロンドン。LBSで卒業以来始めて恩師の一人であるGary Hamelの講演を聴いた。全く衰えない迫力。元々早口なのが、「限られた時間で少しでも多く伝えたい」と興奮しながら語ったのが当時出版されたばかりのこの本の内容。
20年前「コアコンピタンス」で有名になったハメル先生だけど、今回の本は本当に斬新。何しろ、この100年間ずっと正しいとされてきた現代的経営管理手法を根本から見直そう、というのである。
「世の中は大きく変化しているのに、経営手法そのものは100年間基本的に変わって いない。情報がコモディティ化した今、製品やサービスの物まねはたやすく、戦略さえも以前に比べて差別化が難しくなっている。新しい時代に新しい経営手法が必要。そのヒントは自立した小グループに。」
私はその時もらった原書で読みましたが、上記は訳本になります。(アマゾンの評判では、どうも訳が良くないらしい)
ストーリーとしての競争戦略
■書名 『ストーリーとしての競争戦略』
■著者名 楠木 建
■出版社 東洋経済新報社
■発行年月 2010年4月
■推薦者氏名 高木 知巳 
■書評
2年前に出版されて話題を読んだ本。現在、Amazonでのカスタマー・レビューが94件。 しかも、レビュー自体にコメントが多数ついている(トップに表示されているレビュー で9件)。半数のレビューは★5の最高評価で、一部の人が低い評価を付け、平均で ★4となっているが、これだけの話題を集めて、しかも経営戦略論というお堅い分野 で議論を巻き起こしたというだけで十分成功した本。 結論としてはシンプルで、 「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリー」 である、ということ。 「当たり前だ」という声もあろうが、本当にそれだけワクワクするような経営戦略を 聞いたことはそれ程ない。大半の事業は既に世の中に存在する業態であるし、そこで 他社と「ちょっとした違い」を出したり、「ちょっとだけ頑張る」ことで存続は出来 る。 しかし、大成功する会社は、「戦略を構成する要素がかみ合って、全体としてゴール に向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる」 レビュワーの評価として低い理由の一つが、「(また)米国の経営論の焼き直しである」 とか「既存の経営戦略論の紹介が半分」とかいうもので、同業の経営論学者から のものと思える。本書はむしろ実務家向けに書かれているので、その点は仕方なかろ う。一読の価値あり。
知識創造企業
■書名 『知識創造企業』
■著者名 野中郁次郎、竹内弘高【著】梅本勝博【訳】
■出版社 東洋経済新報社
■発行年月 1996年3月
■推薦者氏名 塚田 修
■書評
日本の素晴らしさ、特異性を世界に発信したいと思う人は多いと思う。私自身も過去、何度と無く外国人に日本の良さを何とか伝えようと努力してきたつもりである。いわゆる日本的経営については1970年から1980年台に多くの本が出版された。しかしながら、日本人が最も不得手と思われているイノベーションについて、堂々と西洋人のトップクラスの人々に「そうか、それは知らなかった」とうなずかせる本は無かったように思われる。私は博士論文を作成するために一橋大学大学院 国際企業戦略研究科で学び、この著者であるお二人から指導を受ける機会を得た。知識創造の重要性を説いた人や本は多いが、どのように知識創造がなされるかを理論的に解明した本は無かったといわれる。この本は最初、英語で書かれ「The Knowledge Creating Company」として出版され、欧米社会の研究家、実務家に大きなインパクトを与えた。その後、日本語に訳され「知識創造企業」として出版された。はじめてこの本を読んだ時、第二章の「知識と経営」という内容に驚いた。全く分からない。プラトンとアリストテレスの認識論から始まりでデカルト、カント、ヘーゲルと哲学史をきっちり知識創造に関連して論じ、違いを明確にし、自分の主張を構築するやり方に学問の厳しさと、すごさを感じざるを得なかった。数回、繰り返し読むなかなで、徐々に頭に入ってきた。西洋人の精神の原点であるギリシャ哲学にまで立ち返り、批判し、自分の論を形作り、それを新しい理論として主張するこのスタイルは、過去の日本的経営についての本とは、全く異なるものであった。この本には、日本の特異性、優位性を哲学的根拠から説き起こし、知識創造における「暗黙知」の重要性を欧米社会に真正面から突きつけた痛快さがある。知識創造やイノベーションを目指すものにとっては必読の書である。はじめ難しいと感じられるかも知れないが是非、ご一読をお勧めしたい本である。